不決断に引っぱって、のろくさと一つの声が沈黙を破った。
「その第三班の決議ってのは――どういうんかね。俺にゃちょいと分らないんだが――全線立たなくても、ここだけで行こうってのかね」
「第三班ではその気なんだ」
若い従業員は短く答えて口を噤《つぐ》んだ。
「それなら」
のろのろものを云っていたその男は俄に居直ったように挑発的な声を高め、
「俺あ、絶対に、その案には反対だ!」
ひろ子はその声が、さっき自分が立ってゆくとき後の方から「異議なし」と彌次った声であるのをききわけた。
「異議なし!」
別の声が続いた。
「俺も反対だ! ここっきりなんぞでやって見ろ。馬鹿馬鹿しい。根こそぎやられて、それこそ玉なしだア」
ひろ子は全身の注意をよびさまされた。異議をとなえているものたちの間には妙に腹の合った空気がある。
「議長!」
「議長ッ!」
二つの声が同時に競《せ》り合って起り、甲高い方が一方を強引に押し切って、
「そりゃ違うと思うんだ」
と強く抗議した。
「二月の広尾のストのことを考えて見たって分ると思うんだ。部分的ストは可能だし、それがきっかけで全線立つ情勢は現実にもう熟しているん
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