日本文化のために
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)肯《うべな》いかねて
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出版にインフレーションという流行ことばが結びつけて云われたことは、おそらく明治以来例のないことだったのではなかろうか。ところがこの一二年来は、インフレ出版という言葉が出来た。そしてこの言葉は、本がびっくりするほど売れるという事実と、それだもんだから本当にひどい本まで出ているという事実を意味していて、文学に連関する現象として云えば、小説の単行本の出版される数の夥しきにつれて文学の質の問題が逆の方から問題になって来るという有様であった。日本の文化上の経験としては、未曾有の荒っぽさ、渾沌、無選択の反映であり、読者の経済能力と反比例する読書の基準の喪失が云われるのである。
どんな本でも本でさえあれば売れる、と言う言葉ほど人間をばかにしたことはないと思う。食わせさえすれば何でも食う、そう云われたら人々は悲憤すると思う。本にしろこれは同じと思う。
インフレーションという本来の性質にしたがって出版の場合でも、いい本よりは下らない悪い本が濫造されていたのだから、そのような本
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