で横になっていた私に感じられていた宮本の体の量感が、さめてのちもはっきりと私の横に残っている。深夜の天井を大きく見ひらいた目で眺めながら、私はその感じに沈んで寝ているのであったが、次第に強く感情を動かして来るものを心の中に感じ、私は大きく寝がえりをうち、暫くして起き出した。
面会に行ったとき、面会所の窓の切り穴から看守につきそわれ編笠を足もとにおいてあらわれる宮本の現実の姿は、頭をクルクル刈りにして着ぶくれ、背が低くなったように見えるのである。
鶯
一月末のある夜明けがた起きて仕事をしているうちに、いつか外は朝になった。
前の井戸ばたでポンプの音がきこえ、子供の声が微かにした。雨戸をしめたままでなお書いていたら、どこかでホーホケキョ、ケキョとふっくりした鶯の鳴音がした。私は覚えず耳を欹《そばだ》てた。余りつづけては鳴かず、その一声きりであったが、その声は、私に或るいくつかの特殊な朝を思い出させた。
警察の裏にあるコンクリートの建物の中の一室で、〔十二字伏字〕布団を敷き、〔十三字伏字〕毛布を〔四字伏字〕かけ、一人の色情狂を混えて三人の女が寝ていた。五時になると起き出すの
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