る。その気配が私にも感じられて、ゆとりのあるいい心持がした。
 髪の毛や肩の上へ、箪笥を照していると同じ赤っぽい電燈の光を受けながら、和服で胡坐《あぐら》をかいた宮本が、そこにあった紙型をとりあげて私にその拵えかたを説明した。紙がしめっているうちに細かくたたいて字を出すんだと云うようなことを話し、話しながら自分も表をかえし、裏を返し、紙型を眺めている。その様子を私がある感情をもって眺めている。
 やがて宮本が楽しそうに体を伸してそこへ横になった。一寸経って私もそのそばへ横になった。膳を控えて並んでいる男の人達はやはりそこに膝を並べていて、今は顔を動かし何か話している。言葉はききとれないが、その話は何かそっちだけの話だということが分り、こちらはこちらで横になり、全くこだわりなく、自然である。独特にゆったりとして息つくのにらくな雰囲気を深く感じながら私は目をつぶっていたようだ。

 夢がさめると一緒に私は眼をあけて、びっくりしたように自分のまわりを見まわした。今に起きて仕事をしようと思って点けっぱなしにして置いたスタンドの緑色が動かず静かに枕元に灯っている。
 夢の中で或る間隔を置いて並ん
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