ある。
「手紙がとってある――おかあさま、そんな事もおっしゃるの、私は、真個に、心が痛む、
「だけれども、そうじゃあないか、一体が、始めから私は結婚を許したのじゃあ、ありません。此は、此間も話した事だけれども、家でも斯うやって多勢子供も死に、肉身も少ないのだから、百合ちゃんには養子を取って、分家をさせようと、此那事が起らない昔から云って居たのだ。
「其じゃあ、おかあさまは、養子になれる可能のない人と結婚しようとしたら、御拒みになりますの。
「ともかく一応承諾は経るべきじゃあないか、つまり其人が、真個にお前を愛して居さえすればいいのです。一言で云えば、自分の名なんかどうでもいい、其那ものも捨てる位の人でなければ、お前は愛さないだろうと思って居たのだ。
 斯様な問題が繰返された。
 一度でも、私が、その物質と交換的な養子問題を、内心或る心にすまなさを感じつつそれに傾いたのが、誤りだったのだと思わずには居られない。
 自分達が相互の愛に責任を持った以上、その結果たる生活にも、責任を持つべきであったのだ。
 自分の愛は、今少しで、不思議に甘い妥協と家族制度との誘惑に陥る処だった。
「他姓」「他
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