覚悟した、その覚悟が心に甦る。
人としての彼を選んだ自分は、人として、彼並びに自分を活さなければならないのだ。
――○――
彼が帰朝以前から問題に成って居る、分家問題は、此の二三日に於てそのクライマックスに達した。
親達の意見は、物質的に保障のない、社会的に位置のない彼を真《ま》ともに世間に向けて生活するよりは、父の威を暗示し得る中條姓で行く方が、世間の人間に尊敬を感じさせ易く、私共の結婚に就て、喋った人の口もふさげ、仕事も出来ようと云うのである。
二人は、彼等の死後、或は生前も、物質的保護を受けるに正当な位置に置かせようとして、彼の改姓をのぞむのである。
而し彼の心から云えば、その好意に対して、自分は感謝し、法律上改姓しても、仕事、或は今までの知己には、荒木姓を名乗って行きたいと云うのである。
マミは、此を今夜きいて、非常に激された。
「其は荒木さんに都合がよいことだろうさ、けれども、始め、グランパは何と云った、自分は何も無く、何も出来ないものだけれども、全力を捧げて百合ちゃんの仕事を完成させる為に尽す、と云って寄来したじゃあないか、ちゃんと手紙も取って
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