間求めて居たリビングストン伝を見出す事が出来た。
早速その序二三頁を読んで、自分の心は云い知れぬ感激に打たれた。
人間の生活は、何と云う妥協を許すものだろう。
自分は、誠実の欠乏を、その恥に堪えないまでに思い知らされる。ヒシヒシと、百打ちの鞭打を加えられるような心持がする。
自分は何を知ったと云えるのか、
此の曖昧な甘い自分は、文学に、何を創ろうとして居るのか、
眼覚めよ、憐れなる我が心、
真実のみに人は動かされる。より真なるもの、よき真ならんと努力する者の心を視た時、人は僅かな解怠心をも恥じずには居られないのだ。
自分は甘い落付きを厭う。それを厭う自分である事を自覚することによって第二の甘さに堕そうとする。恐ろしいことではないか、自分の此から書こうとする黄銅時代は、更に甦り、強められた自責の念と、謙譲な虚心とによって書かれなければならないのだ。
四月二十八日[#「四月二十八日」は太字]
今日、福井の方から転送されて来た国男の手紙を見る。
仮令《たとい》感傷的だと云う点で非難はされるとしても、彼が深夜、孤り胸を満す寂寥に堪えかねて書いた文字は、自分を動かさずには
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