被はれし身の冷かなれば……
     事々に無く遺されし姉の心――。
   失ひし宝もどさんすべもがな
     かへがたき宝失へる哀れなる我心

 九月十三日[#「九月十三日」は罫囲み](日曜)雨
 雨の中を行く。
   青山の杉の根本の
     永《とこ》しへの臥床へ――。

 九月二十三日(水曜)
「悲しめる心」を書きあげる。

 十二月一日(火曜)
 病みてあれば
  又病みてあればらちなくも
    冬の日差しの悲しまれける
 着ぶくれて見にくき姿うつしみて
  わびしき思ひ鏡の面
 今の心語りつたへんとももがなと
    空しき宙に姿絵をかく
 ステンドクラッスの紫よ緋よ、鳶色よ
    病なき国抱けるが如

 十二月二日(水曜)
 せわしい時は日記をつける余裕がない。それは実際のことだ。この頃の様に又病気でもすればひまつぶしに書く気になる。
 関先生に和歌を見てもらおうかとも思って居る。永くつき合って居たい先生だ。
 なるたけそう仕様。
 きっと快くうけ合ってくれるに違いない。



底本:「宮本百合子全集 第二十三巻」新日本出版社
   1979(昭和54)年5月
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