言で人間を殺す事が出来るものだ。

 五月四日(月曜)
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〔摘要〕欠席
[#ここで字下げ終わり]
「千世子」はどうしても書きそびれてしまった。
 思う様に出来ない。
 だからまるで思い切って別なものにしようと思う。

 五月五日(火曜)
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〔摘要〕欠席
[#ここで字下げ終わり]
 今日大変黒い蝶の舞うのを見た。
 青い空の下を黒蝶が舞うのは貴族の令夫人の様な姿だ。
 紋白蝶なんかは黒蝶よりもあさっぽい気がする。
 それは色が黒の方はすべての色をふくんだ重みのある色だからだ。
 だから黒色に被われる夜は世の中のあらゆるものが黒の中で育つのだ。

 五月六日(水曜)
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〔摘要〕欠席

[#ここで字下げ終わり]

 五月七日(木曜)
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〔摘要〕欠席
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 五月八日(金曜)
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〔摘要〕欠席
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 坂本さんから返事をよこした。桃色の私の大きらいなきざな形をしたのを呉れた。趣味の高下が表れていやだ。近眼で目鏡をかける様になったと云ってある。
 その様子を想像するといかにも落つきのわるい前のめりの形だ。女で目鏡をかけて美人に見えるのは純日本婦人の中では十人の中に一人とは有るものでない。

 五月九日(土曜)
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〔摘要〕欠席
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 Mが来る。
 花を私に持って来ようと思ったけれ共きまりが悪かったから止めたと云うた。
 きまりがわるかったから止めた
           斯う云ったんだ。

 五月十日(日曜)
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〔摘要〕欠席
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 五月十一日(月曜)
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 五月十二日(火曜)
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〔摘要〕欠席
[#ここで字下げ終わり]
「蛋白石」の稿を起す。
 書き出すとすぐ紙がない。
 買う事も思う様には出来ないのでかんしゃくばかりやたらに起る。

 夜は雨が始はひどく降り、あとからは泣く様に降った。

 今日始めて勉強部屋に来て見た。

 五月十三日(水曜)晴
[#ここから20字下げ、折り返して24字下げ]
〔摘要〕欠席
[#ここで字下げ終わり]
 蕗が大変育った。うす黄のひよっ子も大きくなった。
 部屋の前の紅葉は紅の若葉を絹糸の刺繍の様な色に輝ししめった黒土の上に落椿はなさけない形をして置かれた。軒から松の心にかけたクモの糸が眼に光って私はうす暗い中にだまって座って長い間居た。

 五月十五日(金曜)雨
[#ここから20字下げ、折り返して24字下げ]
〔摘要〕欠席
[#ここで字下げ終わり]
 大変気持がよくなった。
 もうすっかりなおったと云っても好い。

 六月八日(月曜)
 漢文先生

 六月十日(水曜)
 漢文先生

 六月十五日(月曜)
 漢文先生

 六月十七日(水曜)
 漢文先生

 六月十八日(木曜)
 小此木先生の処へ行く。[#ここから横組み]“The rainy day”[#ここで横組み終わり]

 白い小さい縫のセットの上に二三十ころっとしたサクランボーはほんとうにうれしかった。

 六月十九日(金曜)
[#ここから横組み]“The day is cold and dark and[#ここで横組み終わり]
 小雨のうす暗く降る空を見ながら誦すと一人手に思いが深くなる。
[#ここから横組み]“my thoughts still cring to the past.”[#ここで横組み終わり]
○幸、不幸、それははかりしれないものが司って居る。今の私は忘られ行く過去を憶う人とはなると思えない。

 六月二十二日(月曜)
[#ここから20字下げ、折り返して24字下げ]
〔摘要〕欠席
[#ここで字下げ終わり]
 見えない小雨がして居る。
 大工のかんなやかなづちの音もいいかげんにうるおうて響く。
 内に居る日に見えない小雨はなつかしいものだ。

 六月二十三日(火曜)晴
○五月雨時にまれな天気である。頭が軽い。
○大瀧さんに葉書を書く。
○紫陽花《あじさい》の群が重く咲き満ちた。
 ○白鳩の若き翼に夏の日の
    黄金の色に舞ひ舞ひてあり
 ○若楓の青きを恋ひてしたひよれば
    黒き毛虫は我肩を這ふ
 ○梨の葉の云ふ甲斐もなくしぼみ行きて
    来ん日はなどしさうも愚や

 七月六日(月曜)
 不義の
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