さん達六人来訪晩餐
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美術家と云う名によってかなりの期待をして居た私はかなりがっかりした。きっと私のすきな私の夢中になってきく様な話をして呉れる事だろうと思うて居たけれ共そのわりでもなかった。
今夜来た料理人は江戸ッ子の神経的な男だった。
この二三日は頭が重くて片っ方にかたむきそうに思われる。この一学期は何にも出来そうにない。
しかたがないだろうから――かわいたひっからびた学校の事ばっかりで日を送らなければなるまい。
すきのある心抱きて冬の空 仰げば吐息小ごへに咲く
一月二十二日(木曜)晴 寒
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〔摘要〕学校出席
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「何となくすきがあるんです。私は必[#「必」に「(ママ)」の注記]して不幸ではありません。両親の羽交いの下から一寸首を出して世の中の選ばれて私の前にならんで来るものばかりを見て居るんですもの、――
でも何だかすきがありますわ。
はてもない野を大声に歌いながらあるきまわって青い空の下の木の切株に腰をかけて考えて居たらこんな気持はなおるかもしれません。けど斯うした幸福に居て味う何とも云われないかるいそうして美くしい悲しみは長い年の立ったあとには又たまらなくなつかしい思い出になるんでしょうねえ」こんな手紙を誰かに書きたかった。
一月二十三日(金曜)晴 寒
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〔摘要〕学校出席
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寒いわりに気持のいい日だった、私は着物の衿を私のすきな様にゆったりと合わせながらすばしっこくあたりのものを見廻して居た。そうして気もかるかった。
初秋の様にかるい風が私の髪を通して耳たぼをくすぐったり自分でも白いと知って居るえりをなでたりするのはほんとうにうれしい若々しい気がして居た。
一月二十四日(土曜)晴 寒
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〔摘要〕学校出席、古橋氏来訪、数学試験
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一月二十五日(日曜)曇 暖
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〔摘要〕女鴨が来る、渡辺家婚礼、こすき先生、久野先生来訪
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女鴨は始めてここに来ておどろいたおちつかない様子でまわりのにわとりを見て居た。女鴨のお嫁入りと渡辺さんの御嫁入
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