「死ぬ」と云う事がたまらなく恐ろしい又たまらなくきれいにこの頃は思われる。私の年頃私の境遇は死と云うものを或る一種なドラマティックなものとして見る時代になって居る。

 一月十八日(日曜)曇雨 暖
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〔摘要〕父上晩餐によばれる
    小針が来る
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 何となくもの足りない一日だった。何かしら空[#「空」に「(ママ)」の注記]まちにまたれた。
 じいっとしずかに座って枯れた木の梢を見ながら私のまわりに近よったり近づかなくなったりした人の顔や声やくせなんかを思い出した。一寸した出来心でなる女同志の友達なんてそんなに意味深くなりにくいものだとも思われた。
 しとしととふり出した雨の音はなつかしかったけれ共じきにはれて星が美しくなって居た。道が悪くなくていいかもしれないけど今の気持にはあんまりそぐわない。
 気まぐれの小雨の音の我耳をなで行きしあとのもの足らぬ心地。

 一月十九日(月曜)晴 暖
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〔摘要〕学校出席
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 しゞまなる夜に小まりのはれ/″\と
    笑みつゝあるは故なくもよし
 文箱の青貝光り我指の
    白さはまして夜は更け行く

 一月二十日(火曜)曇天 暖
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〔摘要〕学校出席
    有楽座見物(芸術座「海の夫人」、「熊」
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 芸術座の「海の夫人」と「熊」とを見に行く。麻の葉の銘仙に紋ハ二重の羽織を着、袴をはいて行った。「海の夫人」について批評がましい事は云えないけれ共、とにかく内容をうれしいほどこなしては居ない。スマ子さんは今までに一番自分にあった性格らしいかなり印象のつよい事を見せてくれたけれ共まわりの人々にはも一寸と思う事が多かった。バックもあんまりよくはなかった。「熊」は随分皮肉なそうして何かこもってそうな喜劇だった。たった二人位であれだけすきな□□[#「□□」に「(二字不明)」の注記]やってのけたのはとにかく御手ぎわに思われた。スマ子さんの「熊」!「熊」!「熊」! 久雄さんのいった通りの気持をうけた。東洋軒の給仕女の白粉が白すぎた。

 一月二十一日(水曜)曇 暖
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〔摘要〕学校出席、新海
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