、一寸おしかったけれども焼いてしまった。も一度よく考えて書いて見ようと思った。自分の書いたものを火にもやしたのは生れて始めてだった。生れてはじめての事をするほどその原稿は気に入らなかった。けれどもこの次に書く時にはと思ってるからさほど情なくもない。
学校の事をしようと思って机に向ったけれども例の気まぐれな、出来心で、徳川時代の方を御先にまわしてしまった。参考にと思って国文学史と関根先生の「小説史稿」と雑誌に出て居た江戸文学と江戸史跡をよむ。いるところへはり紙をして別に分けておいた。筆を新らしいのをおろしたら妙にピョンピョンして書けないからかんしゃくをおこして鋏でチョキンとしてしまった。かえって書きよくなった。五枚ほど書いてから墨がかわいてしまったからそれをしおにやめた。それからもう一昔もそれよりも前の「上等記事論説文例」って云うのをよむ。「神功皇后韓ヲ征スル事ヲ論ズ」と云う一寸ばかりの短い論説だか何だか分らないようなのがあって、一番おしまいに道真左遷の事を論ズと云うのがあった。割合に下らないもんだった。それから「約百記」を半分ほどよんだ。□百□[#「□百□」に「(二字不明)」の注記]
前へ
次へ
全31ページ中26ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング