った。あんな暗いじめじめしたところに居ながら、とあの細い茎や根のすみずみにまで行きわたって居る、生の力の偉《おお》きなのにびっくりした。それと一緒にその一枚の葉でもわけなしでむしると云う事がいかにもみじめに思われてあの細い躰から血がながれそうに想像された。
 八つ手の白い葉裏にあかと黒の先《せん》だって中《じゅう》はやって居た黒地に黄模様のはん袴のようなテントー虫が三つ、ポツン――ポツーンポツーンと言葉に云ったらこんな工合に散って居た。こんな事を御飯すぎて庭に出て見つけた、八つ手のうらのテントームシは何となくそのまんま忘れてはすまないように思われたんで、短いものを一つにまとめて置いた。それから落ついた今までないような余裕のある心地で机に坐った。
 数学と、英語と地理、これだけのしなくちゃあならない事をすましてから Beggar と云うのを読んだ[#「だ」に「(ママ)」の注記]見た。
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「丈の長い男と同じほどの又それよりも大きい体で
まるで海賊の女王としても似あわしいほどの女だった」
[#ここで字下げ終わり]
 日本にこんな大きな立派な体の女乞食はまだ私は見た事がな
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