きいて居るのもまた毛色の変った面白さが有るネ」
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と云ったんで大きな声でわらいながら、その話を中途でやめて運動場の砂をザクザクさせながらそのはなしのつづきを思って居た。
 夕方、めずらしくカナカナがないた。私も一緒にカナカナカナカナと云って口がこわばる頃、とっぴょうしもない声で笑って部屋にかけ込んだ、うれしかった……
 椿の木、桜、杉、そんな植え込みを通して青い瓦斯《ガス》の下を行ったり来たり、笑ったりするお娘さんの姿が見えた、ひるま見る時よりも美しかった、
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「となりのお嬢さんあなたはいくつ?」
かごの小鳥が声かけた
「わたしの年をあなたがきくの?
それじゃ、あなたとおない年
ですよ、まだ若いでしょう?」
となりの娘さんが云いました
「マア、それじゃあマアお嬢さん
貴方はやっと二つなの?
同い年ならその筈よ」
かごの小鳥はおどろいて
どんぐりまなこで云いました、
「私はネェ、小鳥さん、
特別仕度の子なもんで
こやって口もきけますの
おかしいワネェ、オホ……」
小鳥も一緒に「オホ……」
笑ったけれども「何となく様子が変だ」と鳥さんは
首をかしげてとまり木に
チョコンと止まって居りました、
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 私は自分が小鳥になったつもりでこんな出たらめをうたって足拍子をとって笑って……間もなくいつもにもなくはちきれるようなうれしさに
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「神様、どうぞ私の夜の床を御守り下さいませ」
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 こんな事を小声に云って床に入った。
 この頃になくうれしい事ばっかりの一日、私は一寸しか、おしるしほかはたらかなかったけれども、今までにないうれしい一日で有った。こんな一日をうしろにおいてきぼりにするのがつらかった。

 七月二十二日 曇天
「何だか気の重い日らしい」目のさめた時に閃くようにそう思ったのがあたって一日中あくせくまるで、日向に石をつんでうめいて居る駄馬のように暮してしまった。
 随分下らない面白くない一日だった、
 日記をつけようと、ペンをにぎって居てさえもイライラするほどだった。昨日と正反対の心持で暮した今日一日が涙の出るほど可哀そうな様に思われた。
 新聞を大変気に入ったところがあったので切りぬいておいたら、紙くずと一緒されてしまった。
 たった一つの首人形をふみつぶさ
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