括《くく》り枕へ半紙を巻きつけた所には、擬《まが》うかたもない庸之助の似顔が、半面は、彼がふだん怒ったときにする通り、眉の元に一本太い盛り上りが出来、目を釣り上げ、意気張って睨《にら》まえている。半面は、メソメソと涙や鼻汁をたらして泣いて、その真中には、どっちつかずの低い鼻が、痙攣《けいれん》を起したような形で付いていた。庸之助の帽子をかぶり、黒い風呂敷の着物を着せられたその奇妙な顔は、浩を見ながら、
「どうしたら好かろうなあ……」
と歎息しているように見える。浩は苦笑した。おかしかった。が、心のどこかが淋しかった。賑やかなうちに妙に自分が、「独りだ」とはっきり感じられたのであった。
二
お咲の体工合の悪いのは、昨日今日のことではない。じき体が疲れるとか、根気がなくなったとかいうことは、今更驚くほどでもないけれども、いつからとなくついた腰の疼《いた》みが、この頃激しくなるばかりであった。上気せのような熱が出たりするようになると、お咲は起きているさえようようなのが、浩にもよく分った。心を引き締めて、自分を疲らせたり、苦しませたりするものに、対抗して行くだけの気力が
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