いには、ほんとうに自分が考え、望んでいることは何なのか分らないようになってしまう。若い者達が無理でなく思われた。今の場合とは違うかもしれないが、一生の職業を定めるときなどに、あれが好い、これが好いとあまり智慧をつけられ過ぎた結果、とまどって方々喰いかじりのまま一生を過してしまう人などさえある。「各自は、各自の進むべき道はただ一本ほか持たない。それを一旦見出したら決して迷わずに進め、どしどし進め。岩があったら踏み越え、川があったら歩渉《かちわた》れ。倒れるなら、行けるところまで行ってから倒れろ!」彼は、一人の若者が、勇ましく両手を拡げ、足音を踏みとどろかせ、胸を張って、嶮しい山路、荒涼たる原野を、まっすぐに、まっすぐに、どこまでも、どこまでも突き進んで行く姿を想像して涙をこぼした。勇ましく力を張りきらせて暮して行こうと思いながら、理智でいえば卑小な感情にたとい一時的ではあってもほとんど心全体うちのめされたようになることのある自分を思うと、(彼は昔の学者やその他の偉かった人のように感情を殺すことはのぞまない。人間の感ずべきあらゆる情緒、情操を尊重している。真の人間となろうには、それ等のあら
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