である。よく新聞などにある詐欺に、かける人間も、またかかる人間も、望むところはただ一つなのだと思うと、浩はお互に可愛いところがあるというような気持になったりした。
このごろではもうお咲も、浩に厭な顔ばかりを見せている元気もなくなった。一人でも親身に自分のことを心配してくれる人が有難く思われた。年寄達や夫だっていざとなればどうだか分らないというような心持もしたし、だんだん訳を聞いて見れば、あの夜のことも、浩ばかり悪いわけでもない。仕舞いには、
「お父《とっ》さんの考えるような出世は、今の世の中で出来ようはずはないわ。大学を出た立派な人だって始めは、ずいぶん廉《やす》くて働くんだっていうもの。浩さんなんかたった十九で十五円じゃ年からいったってねえ。それに学問のしようから違うんですもの……」
などと暗に彼に力をつけたりした。彼は自分と父親の間を周囲のものがいろいろなふうに考えているということに驚かされた。年寄は年寄達で、彼等が若かった時代に見聞きした通りの事件に近いものとして推察しているし、お咲はお咲で、父親が彼の出世の、のろいのを怒っていると思っている。彼は、傍からいろいろ云われて、仕舞
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