けなければならない条件つきであった。それ故、その毎月に一回ずつの入院費の支出に就ても、彼等はまた工夫しなければならない。自分のためにせずとも好い借金をさせたり、相談をさせたりすることに、すっかり気がひけて、家中の者に気がねしているお咲を見るのが浩には辛かった。この金目のかかる病人一人を抱えて、家の者は一人として、そのような言葉を口にこそ出さなかったけれども、互の顔が合うたびに、目と目が言葉にしないこういう心持をつぶやき合った。――家中がどんなに、湿っぽく暗くなっているか解らない、これというのも皆あれのおかげだ。浩は金が欲しいと思った。二十円でもまとまった金があれば、今の皆の心がどんなに引き立てられるかしれないし、また姉にしろ、身を削るような涙をこぼさずとも済む。金があったらなあと、はっきりつぶやきそうにまで、ほんとうに強く彼は思った。けれども十五円ほか月に貰わない――それもようよう今年の四月から――で、貯蓄などは出来ないのに、二十円はおろか五円だって、右から左へ動く金は持っていない。今までだとて浩はもちろん、決して豊かな若者ではなかった。けれども金には――ただ本を買う場合を除いて――す
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