れて、直射したことがないので、石段から拡がっている二坪ほどの地面には、一杯苔がついて、陰気ではなかったが、外のどこよりも落付いていた。浩はそこに腰をかけては考えるべきことを考えた。隠れ家というのが、自ずとそこを呼ぶ名になっていたのである。)彼は、どんな人に対してでも、善人だとか悪人だとかいう断定は下されないものだと思った。「まして、或る人のすることは、悪いに定まっているなどと思ってはすまない。互に許し合って行かなければいけない……けれども」彼は、憤りとか、憎しみとか、抵抗とかいうことを、全然、自分の心から除去してしまうことはとうてい不可能であった。「何か一つ過失をした者の前に、我々は決して、尊大に完全そうにかまえてはいけない。自分でもいつ、するか分らないじゃあないか?」浩は「お互に人間なのだから、出来るだけ愛しあって、仲よくして行かなければいけない」と思っている。そして、弱い者の前に、強がっている者を見ると腹が立つ。特殊な自分の権利を勢一杯利用してそういう特典を持たない者に誇ろうとする者に対して憤りを感じる。
 けれども、もっともっと自分が努めて、心を練り、善くし、賢くしたら、腹を立て
前へ 次へ
全158ページ中46ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング