浩の心のうちには、さまざまな変化があった。善いことも、悪いことも、ごたまぜに、ただ彼が選ぶにまかされたような状態のうちにあって、彼の先天的の自重心、年のわりには鋭かった内省が、多少の動揺はもちろんあったが、彼を希望していた道に進ませて行った。そして、自分からいえばあまり喜ばれない心持の多かったときでも、周囲の者、特にたくさんの上役からは、いつでも正直な善い子供、若い者として認められていた。比較的、無口で落付いていることや、すべての服装が商店に育つ若い者にありがちな、一種の型から脱していたことなどが、彼をどこか他の者とは違った頭をもっているらしく思わせたということもある。もう五十を越している取締りなどは、「お前は、偉くなろうと思えば、きっとなれる質《たち》だ。うんと勉強をし、吉村さんのように主人が洋行させてくれるかもしれない」と激励するほどまでに、彼を可愛がっていた。従って、一日に一度、山の手の住宅から出かけてくるだけの主人も、店の若い者の中では、浩を一番有望な者だと思っていた。それに特別な関係――自分等で育てて一人前にしてやろうとするものが、かなり見どころある人間になってくるのを見る、
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