ると、先ず第一停車場に出迎に来ていた浩を見たときから、それはまるで反対になってしまった。
 あんなに小《ちっ》ぽけな、瘠せた小伜《せがれ》であった浩が、自分より大きな、ガッシリと頼もしげな若者になっているのを、むさぼるように見ると、
「オー」
という唸り声が口を突いて出た。
「生意気そうな若者になりおったなあ」
 肩を叩きながら、彼は泣き笑いした。
 彼の一挙一動はひどく浩の心を刺戟した。身のこなしに老年の衰えが明かになって来た彼、少くとも浩の記憶に遺っていた面影よりは、五年の月日があまり年をよらせ過ぎたように見える彼に対して、浩は痛ましい感にうたれた。そして浩がさとった通り、孝之進は健康な息子に会うことも、生きられた――ほんとうに、もうすんでのところで、してやられるところだった危い命を取り止めた――娘に話すことがどのくらい嬉しかったか分らないのである。けれども、金のことになると――。孝之進の頭はめちゃめちゃになった。堪らなかった。そして歯と歯の間で、彼はいまいましげに唸るのであった。
 電車が! 自動車が吠えて行く。走る車、敷石道を行く人の足音。犬がじゃれ、子供が泣き、屋根樋に雀が騒
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