思うと、また、自分が或るときは非常に善い人間であるが、或るときはもうもう実に卑小な人間にもなるということを思うと、とかく踏みとどまりきれずに、どうにもならない際まで行ってしまう世間多数の人間を、「あいつは馬鹿だ!」とか、「思慮が浅いから、そうなるに定まっているのさ!」などと、一口には云いきれなかった。お互の長所を認めて、尊重し合って行くことは立派だ。けれどもまた、互に許し合い助け合って行きたい弱点も各自が持っているのだと思うと、浩は涙がこぼれた。
 庸之助が仲間の目を盗んで、あの記事の出ている新聞を隠そうとして、畳んで懐に入れてみたり、机の中に押し込んだり、それでも気が済まぬらしく、鞄まで持ち出して、部屋の隅でゴトゴトやっているのをみると、浩はオイオイ泣きたいような心持になった。
「君はきっと、出来るんなら、日本中の新聞を焼き尽してでもしまいたいんだろう? なあ庸さん!」
 庸之助の父のような位置にあり、境遇にある人が、今度のような事件に、全く無関係であり得ようと、浩には思えなかった。

        四

 薄紙を剥ぐように、というのは、お咲の恢復に、よく適した形容であった。全く気
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