、今にも消えそうに、大きく小さく揺らめいたり、瞬《またた》いたりしていた蝋燭の焔が、危くも持ちなおした通りに、快方に向くと彼女のまわりは、にわかにパッと明るくなった。安心と歓喜と、愛情の強いほとばしりで、お咲の病床に向って、楽しげに突進して行くように浩は感じた。当面の死から逃れ得たことは、彼女の生命が永久的に保証されたかのような安心をさえ与えたのであった。運がよかったということが口々に繰返され、医者まで、「全く好い塩梅でしたなあ!」と、自分等の技術に対してよりも、むしろ何か無形の力に対して感歎しているらしいのを見ると、浩も、「ほんとに危ういことだった」としみじみ感じない訳には行かなかった。そして、あれほど生かそうとする力と死なそうとする力が、互に接近し、優劣なく見えていたときに、ほんの機勢《はずみ》といいたいほどの力が加わったために、彼女が今日こうやっていられるのだと思うと、何だか恐ろしかった。自分が一生送る間に――もちろん一生といったところで、その長さを予定することは出来ないが――今度のような、微妙な力の働きを感じて、心を動かされることがどのくらい多いのだろうかと思うと、もっとせっせ
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