撫が漲っている。心のうちで、出来るだけくさしながら読んで行っても、孝之進の目にはしきりに涙が浮んだ。
 頭をガクンガクンさせながら、「もっともだ、もっともだ」と呟いては涙をこぼしていた孝之進は、フト今までひそまり返って物音一つしなかった隣室で、お咲の身じろぐ音を聞きつけると、急に気がついて、こごんだ体を引き起しながら、あちこちを見まわした。猫の子にさえも、泣顔などは見せたくなかった彼は、好いあんばいに、誰もいず、また来もしなかったのに少しホッとした心持になった。自分で自分をごまかす空咳を、二つ三つした。そして何心なく振向いて見ると、思いがけず無双の間から、瞳が二つ、キラキラと自分を見ているのに、すっかり驚ろかされた。お咲がこちらを覗いていたのである。
 日光にあたらないのと、病気とで、暗い中から僅か見える彼女の顔は凄い美しさがあった。全く瞬きをしないような光った二つの目は気味悪い。
 先刻《さっき》からの様子を見ていたな! と直覚的に思いながら、孝之進は少し狼狽した口調で云った。
「どうした? 呼ぶか?」
(用事のときには、おらくを呼ぶことになっていた。)
「お父さん。咲二は? 何して
前へ 次へ
全158ページ中147ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング