、石炭殻を一杯つめたように感じる頭を、ちょっとでもゆすると、ガサガサと一つ一つになったたくさんのものが、彼方の隅から此方の隅まで、ドドドドーッところがりまわる気持がした。五つか六つの子のように、オイオイ泣くかと思うと、直ぐ止めてきょとんとしながら、咲二と並んで、のんきそうに空をながめていたりした。
 その朝は、おそろしい上天気であった。深い朝露――霜にはまだならない、あのたくさんな露――でキラキラ光り輝やいている、屋根から木立から落葉まで、ほとんど一睡もしなかったお咲の心には、あまり刺戟が強過ぎた。彼女は呆然瞳をせばめて、靄《もや》のかかった彼方を眺めていると、不意にどこからか咲二が来て耳元で「かげが! かげが※[#感嘆符二つ、1−8−75]」と叫んだ。彼は平常になく腰を折るほどに力を入れて、歌うように調子をとってどなったのである。お咲は、ハッと気がはっきりした。そして咲二の顔を見、声を聞いたとき、彼女の心のうちには、彼の日の記憶――咲二が昏倒したときの場面――が、スルスル、スルスルと繰拡げられた。名状しがたい感情の大浪が、ドブーンと吼《うな》りを立てて打ちかかって来た、その刹那、彼女
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