だよくして、よくして遣りたいばっかりだったんだわ」お咲は声を上げて泣き伏した。
 見ている孝之進の目にも、思わず涙が浮んだ。「泣いたって始まらん」と思いながら、云うままにならない涙が容赦なくこぼれ落ちた。
「まあまあお前、そうお泣きでないよ。ね、決して誰を恨むものじゃあ、ありません。皆前世からの因縁事なのだからね。ああ、ああそうだとも、皆因縁ごとだよ。もうこうなった上は、ただよく諦めることが肝心だよ、ね。お咲。一旦きっぱり諦めがついてさえしまえば、どんなことでもそうは苦労にならないものさ。ねお諦め、さ泣くのをやめてね」
 おらくは、泣き沈んでいる娘の肩を、震える手で優しく撫でながら、無意識のうちに数珠をつまぐった。
 こういう気の毒な場面が、一日に幾度となく繰返された。お咲は、東京の良人のところへ何と詫びを云ってやって好いか分らなかった。良人に済まないのはもとより、お咲は息子に対しても、何と云ってあやまって好いか分らないことをしたという苦しみにせめぬかれた。「どうぞ堪忍《かんにん》して頂戴、咲ちゃん!」朝起きると、夜寝る迄時をかまわず、彼女は息子の前にお辞儀をしては、涙をこぼした。そし
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