しても意地が承知しなかったのである。そのかわり、浩からの便りは、たとい一片の端書でも、彼は目で読むというより、むしろ心全体で含味するというほどであった。紙の表から裏まで、繰返し繰返しとっくりと見る。考える。批評して「なかなか生意気なことを書きおるわい」と思うと、我ながらまごつくくらい涙がやたらにこぼれる。そして誰が何とも云いもしないのを、「年をとると、とかく目が霞む、目が霞む」と、自分に弁解していたのであった。
 浩の方でも、このごろになっては父親がどんな心持でいるかというのを、すっかりさとっていた。孝之進あてにした手紙でも、為替でも、皆滞りなく受取られるのを思うと、嬉しいながら、妙に頼りない心持がした。どうにかして、もう僅かばかりらしい余生を、せめて楽にでも送らせて上げたいと、しみじみ感じた。けれども、自分の最善を尽したより以上のことを、望むことはとうてい出来ない。特別の報酬を得る目的で、夜業などをすることさえあった。

        十五

 どんなに案じようが歎げこうが、咲二の奇癖はつのって行くばかりである。度重るうちには、自然と他人にも見つかって、噂が噂を産んだ。そして、平常
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