と、はっきり一口に云われると、滅入っていた心も引き立って、「ほんとうにねえ。今死んじゃあいられないわ」と思いなおすのが常であった。小さい手鏡の中に荒れた生え際などを写しながら、
「まあずいぶん眼が窪みましたねえ。こんなになっちゃった……。死病っていうものは、傍《はた》から見ると、一目で分るものですってねえ。ほんとにそうなんでしょうか? あなたどうお思いなすって?」
と云ったりした。
「私なんかもう生きるのも死ぬのも子のためばかりなんですものねえ、咲ちゃんのことを思うと、ちょっとでも、もう死んだ方がましだと思ったりしたことが、こわくなるくらいよ」
 浩が買って来た人参を飲んだり、評判の名灸に通ったりしても、ジリジリと病気は悪い方へ進んで行った。普通なら大病人扱いにされそうに※[#「うかんむり/婁」、106−14]れたお咲が、せくせくしながら働いているのを見ると、浩は僅かばかりの雪を掌にのせて、輝く日光の下で解かすまい解かすまいとしながら立たせられているような心持になった。目に見えて姉の体は、細く細くなって行く。けれども自分の力ではどうにもならない。大きな力が、勝手気ままに姉の体を動かし
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