肉親
宮本百合子
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【テキスト中に現れる記号について】
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地付き]〔一九四九年七月〕
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ソ同盟に対する引揚促進運動は、さきごろ、はっきりした反ソ運動の一つのかたちとして悪用されていた。内地の暮しがくるしくて家族の生活のたちゆかないのは、ソ同盟から帰ってこない一人の人が、家族のなかにあるのが主な理由ではない。吉田政府のバッサリ方針で、これだけいちどきに失業者がでれば、たとえソ連から一家へ五人の引揚げ者があったところで、生活の安定は約束されない。苦しい生活のあえぎから、せめてあれがいたらと思う親の心、あのひとさえいて働いてくれたら、と切実に思う妻たちの心を、国内の生活の確保を求める方向からそらして、涙まじりにかきくどく封建のしぐさに誘いこんで、人情を反ソ的な気分に利用したやりかたは露骨だった。
政府がそこをめざした論より証拠は、こんどの帰還者を迎える準備として『国のあゆみ』『民主主義』を数万部増刷したということは発表したが、どこの誰も、ただのひとことも、引揚者の就職は保証されているとは云わなかった。肉親の顔がみ
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