られるうれしさにとりまぎれてそのうれしさをやがて苦痛にかえる失業生活について引揚者の家族は深刻な経験にさらされようとしている。
 七月三日の各新聞には、集団的な行動になれて帰ったものたちが、自分たちの立てて来たプログラムにしたがって党本部へ行動したり、民主主義擁護同盟の大会に出席したりするなかから肉親の甥一人を仲間はずれにして列の中からひっぱりだしている女二人の写真が大きくのった。
 舞鶴から東京へ入った引揚第一列車には六百四十一名、遺骨二柱と新聞は報じている。六百あまりの人は、それぞれ集団として自主的に行動したのに、たった一人不仕合わせな青年が姉と叔母とにつかまえられて列車にひきずりこまれる悲しい姿を反民主運動の宣伝ポスターのように、全国の新聞にさらされたのはなぜだろう。
 あの写真はわたしたちにいろいろ深く考えさせた。わたしは自分の母の気持や私に対してしたことを思い出さずにいられなかった。
 実の母に警察と手配をうちあわされて検挙された友達や、おばさんに密告されてつかまり、ひどい拷問にあった友達を思いだした。
 また肉親の圧迫で自殺した三條ウメ子という貴族の娘があったのも思いだした
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