のところらしい幸治がにやにやしながら、
「貧乏ひまなしでやっていますとたまには、病気もなかなかいいところがあるですよ」
エアシップの灰をおとしながらしかつめらしく云った。
「妙なもので公然と欠勤した日の味はまたちがいましてね、勤人根性ですね」
増田の父親の経営している会社の子会社へ、若専務として幸治はオースティンで通っているのであった。
苦労のない三人がストウブのまわりで顔をつき合わせて何や彼やと、やや倦《う》んじたところへ多喜子が来たのも、小さい新しい一つの刺戟であるというらしい暢《の》びやかな、とらえどころのない雰囲気である。
多喜子が帰るしおを計っていると、幸治が案外の敏感さで、
「まあよろしいでしょう」
ととめた。そして、冗談と十分対手に分らせた物々しさで、
「どうだい、ひとつ多喜子さんに僕たちが何に見えるか鑑定していただこうじゃないか」
と云い出した。
「何に見えるって――何なの?」
桃子の顔を見ると、桃子は火鉢のふちへもたれかかって妙に口元を曲げたなり火箸で灰をいじっていて聞えないようにしている。
「実はきのうは、僕たちの記念日でしてね、ひとつ趣向をかえて御飯でも
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