のなかで私たちみたいな女がドストイェフスキーみたいな厚いむずかしいものなんかをよんでいるのを見かけるが、果して彼女達はどこまで理解してよんでいるのだろう、って云うんです。電車の中なんかでは軽い雑誌とかパンフレットでもよむべきだって、その女のひとは云うんです」
「何てわからないんだろう! そのひと」多喜子が、怒ったように小枝子に振向いて訊いた。
「生意気だって云うの?」
「さあ。――とにかく机に向わなけりゃドストイェフスキーなんぞわからないって云うんでしょう」
「変なのね、私たち誰だって電車の中でよんだ学課以外の本のおかげで、どうやら読書力がついたんだわ」
「そのひとには、往復の電車で本をよめるというのがどんなに勤めているもののよろこびと慰安だか分ってないんですのね、きっと」
 いくらか難詰の声で小枝子が云った。そして、
「何しろ、現にこういうのがあるんですからね」
 自分のメリンス包の下にカヴァをかけてもっている大版の「緋文字」をちらりと見せて小枝子はユーモラスに首をすくめて笑った。
「何だか苦しかった。どっかに今朝の『女の言葉』を見た人がいて、ははん、あれだな、なんて見られているんじ
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