おのずからひろがって、三人の女は手や足先を動かしながら、その後援会に二人が加わっている女優の演じた田舎の庄屋のおかみさんが粋すぎたなどという話も出た。仕上げミシンの急所のところで、多喜子が、
「あ、ちょっと、そこはこうした方がいいんじゃないかしら」
 自分でミシンを踏みかけたら、小枝子が、
「私、下ふみますから……」
 多喜子を軽く押しのけるようにした。
「あら。大丈夫なのよ、今は。自分の仕事だってしている位なんですもの」
「ええ、でも。今度は本当にうまくお生みんならなけりゃいけないんですもの」
 何か思いがけなかったような女同士の温い心づかいが小枝子の声や身ぶりの中に感じられて、多喜子は却って言葉がつまった。去年初めて姙娠したとき、多喜子は自分の健康に自信をもちすぎていて、テニスをしたり自転車にのったりしたために流産をした。小枝子はそのことをさしているのであった。
 一仕事すんだくつろぎで番茶をのんでいると小枝子が、
「きょうの『女の言葉』よみました?」
と二人に向ってきいた。
「朝日のでしょう? まだ見なかったわ、何か出ているの?」
「ある女のひとが投書しているんですけれどね、電車
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