でも飲み込んで堪える母もなかなか大抵ではなかったろうとつくづく思う。
 孝ちゃんと、家の二番目の子が同じ小学校の一級違いだったので、一しきり垣根越しの交渉がすむと、
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「正ちゃん。
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と呼びながらグルッと表門の方へ廻って入って来る。クルッと顔から頭の丸い、疳の強い様な一寸もお母さんには似て居ないらしい。
 奥さんがずぼらななりをして居るのに、いつもその子は、きちっとした風をして居た。
 ちょくちょく下の妹もつれて来た。
 ちょんびりな髪をお下げに結んで、重みでぬけて行きそうなリボンなどをかけて、大きな袂の小ざっぱりとしたのを着せられて居る。
 あんまりパキパキした子ではないけれ共小憎らしいと云う様なところの一寸もない子であった。
 兄達が毬投げなんかすると、木のかげや遠くの方にそれて行ったのを拾う役目を云いつかって音なしく満足してやって居るので、しおらしい感じを起させた。
 私が出て行って、何か云おうとすると、はにかんでさっさと逃げて行ってしまうので、一度も落ついて口をきいた事はなかった。
 最う少しパーッとした処が有れば好いがと思わないで
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