は無かったが努めて打ち解けさせ様とする気にもなれないで居た。
孝ちゃんの親父さんと云う人は何処かの銀行へ出て居るのだと子供達が云って居るが、そんな人には似合わない、地味なしまった生活をして居るらしかった。
頭の細長い様な、細い髪の毛を右から分けて、如何にも神経質らしい人だった。
すぐ目の先に百日紅の赤く咲いて居る縁側を、懐手のまま、所在なさそうにブラリブラリして居るのなどをチラリと見た事もある。
あんな痩せた体で、よくあれだけの人数を食わして行けると、まるで自分に関係の無い事ではあるけれ共、あんまりその人の痩せ方と、人数の多さの比が甚しいので、不思議に思った事もある。
兎に角、見かけ通りに種々の事をゴツゴツと所理して行く人なので、私共の家のものがいやな思をした事も少くない。
隣なんかと、あんまり親しくつき合う事をしない私の家の風なので、まあどうでもいいわと思いながらつい、
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「ほんとうに妙な人だねえ。
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と云う様な事をちょくちょくして居た。
其の二年程前から――前に孝ちゃんの家が裏に居た頃――一番上の弟が鶏を飼い始めて、春に二
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