「清子、何とかをして御くれ。
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と奥さんが大きな声を出すと、店屋の小僧が出す様な調子で、その清子と云うのが返事して居るのをきいて母等は、
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「女中じゃあない様だが、
ああ朝から晩まで使われ通しじゃあ育てっこありゃあしないだろうにねえ。
可哀そうに。
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と云ってみじめがって居るし、私なんかも、あんまり立てつづけて「清子、清子」と云って居るのを小耳にはさむと、小供の守位にして置けばいいのに、どんなにかひねっこびれた子になるだろうと思い思いして居た。
一番総領が十三になる孝ちゃんと云う男の子で次が六つか七つの女の子、あとに同じ様な男だか女だか分らない小さいのが二人居るので、随分と朝晩はそうぞうしい。
上の子が、恐ろしい調子っぱずれな声を張りあげて唱歌らしいものを歌って居ると、わきではこまかいのが玩具の引っぱりっこをして居る中に入って奥さんが上気あがって居たりするのを見ると気の毒になってしまう。
家も今こそかなり皆育って静かな時が多いのだけれ共、前にはあんな事もあったのだろうと思うと、愚智一つこぼさずに何でも彼ん
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