う。
 毎日ある事ではないんだからと、翌日の朝は、幾分か静かな考えになって居た。
 多分月曜か火曜であったと思うが午後から小雨がして、学校から帰って来た頃は気が重くて仕様がなかった。
 それに、昨夜の予定がすっかり狂って、あんな事のために大切な一日分の仕事がずって来たと云う事も不快で、今夜は、どんなにせわしなくても二日分の事を仕なければならないと、図書から借り出して来た厚い重い本を持って手をしびらして家にたどりついた。
 夕食をすませるとすぐ部屋に入る。
 苔の厚い庭土にしとしとと染《し》み込む雨足だの、ポトーリポトーリと長閑《のどか》らしく落ちる雨垂れの音などに気がまとめられて、手の先から足の爪先まで張り切った力でまるで、我を忘れた気持で仕事をしつづけて居た。
 嬉しさに胸がドキドキする様であった。
 八時半頃までまことに無事であったところが又思いもかけず、昨夜の騒ぎが繰返され始めた。
 けれ共、雨で四辺がしめって居るのと、人数が割合い少ないのとで余程凌げたけれ共、
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「又か。
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と云う様なぶべつした感情を押える事は出来なかった。
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