中初めてきいたさわがしさであった。
 それだから、多くの人達の感じるより多く深く動かされたのであろう。
 男なんて随分下劣な事を平気で、云ったり仕たり出来る動物だなどとさえ思った。
 何か口を動かす物でも出たと見えて、少しの間しずまった折を見て自分の書斎に入った私は、又じき今度は、前より十層倍もある様な声で、
[#ここから1字下げ]
「浅間山何とかがどうとかして
 こちゃいとやせぬ
[#ここで字下げ終わり]
と怒鳴り出したので、漸う静かになったと思った私の気持は、一たまりもなくめちゃめちゃにされてしまった。あんまりだと思って涙が出そうになって来た。
 自分の子供だの細君だのを放っぽり出して、あんなにして居るんだろうと思うと、不断いやに落ついた様な、分別くさい顔をしてすまし込んで居るあの家の主人が、もうもう何とも云えないほど憎らしくなってしまった。
 人を憎むとか悪様《あしざま》に思うのは悪いと云っても、今などはどうしてもそうほか思い得ない。
 腹を立て疲れて私が床に渋い顔をしながらついたのは彼此十一時半頃であったが、母の話では、何でも雨戸は明け放しで十二時過まで、ゴヤゴヤ云って居たと云
前へ 次へ
全32ページ中27ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング