たりじいっと部屋の中央に立ちはだかったりして険しい眼附をして一人でプンプンして居た。
 母等も初めは、いかにも五月蠅そうに、
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「何て事ったろうねえ。
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とか、
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「ほんとにまあ困りものだ。
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などと云って居たがじきもう何とも云わない様になってしまったのが、余計私には物足りなくて、
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「ねえ、お母様、
 なんて云うんでしょう。
 あんなに男達がさわいで、家の女達はどうして居るんでしょうねえ。
 だまって見て居るんでしょうか。
 やかましい下等でほんとにいやになる。
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と云ったりして、しきりに同意を求めなどした。
 夜は、いつも私の何より尊い時間で夕食後から十一二時位までの間にその日一日の仕事の大半はされるのに、その夜は、濁声にかきみだされて、どうしてもしなければならない本を片手に持ちながら、とげとげしい、うるおいのない気持を抱えて家中を歩き廻った。
 一体此処いらで、そう云う調子のさわぎをきく事はまれなので、私などは、蟻の足ほど短かい今日までの生涯の
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