達の娘だとか妻君だとか云う人で暇仕事に音楽などをする人が多いので、東京の音楽の盛な区の中に入って居るとか云う事をきいた事があった。
 実際上手下手は抜きにして殆ど家並にその家人の趣味を代表した音が響いて居るので、孝ちゃんの家でもいつの間にか、昔流行った手風琴を鳴らし始めた。
 どっか恐ろしくのぽーんとした大口を開いた様な音からして、あんまりいい感じは与えない上に、その主があの親父さんだと云うのだから又いい笑種にされてしまった。
 一つの電気の下に集まって、毛脛をあぐらかいて、骨ごつな指を、ギゴチなく一イ、フウ、三イ、とたどらせて行く父親をかこむ子供達が、その強張った指と、時々思い出した様に、ジーブッ、ブーブーと響く音とから、大奇籍[#「籍」に「(ママ)」の注記]でも現れ出そうな眼差しで、二つならべた膝に両手を突張ってかしこまって居る。
 その様子を想像するさえ可笑しいのを、弟が、身振り口真似で云ってきかせるのだから笑わずには居られない。
 私共だって、一段上の趣味の高い完全な人から見ればそりゃあ又可笑しい事だらけだろうけれ共、何から何まで吊合わない、まるで糸の工合の悪い操り人形の様な事
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