急に大騒ぎになった。
何だか彼んだか訳の分らない事を二色の金切声が叫びながら、ドッタンバッタンと云うすさまじさなので、水口で何かして居た女中達は皆足音をしのばせて垣根の隙――生垣だから不要心な位隙だらけになって居る――からのぞくと、これはこれはまあ何と云う事だろう。
奥さんと、女中が啀《いが》み合いの最中なのであった。
ヒステリーらしい奥さんはギスバタして痩せて居るし女中の方は苦しそうにまで肥って居る。
その二人が夢中になってやって居るのだから恐ろしいも恐ろしいが先ず可笑しさが先に立つ。
何とか怒鳴って奥さんが女中の髪の毛をむしると女中は歯をむいて奥さんの手と云わず顔と云わずバリバリ、バリバリと引っ掻く。
髪が解けてずった前髪からはモジャモジャな心が喰み出て居るし引きずって居る帯に足を取られては俵の様になって二人ともころがる。
四五度引っくり返っては起きなおり起きなおりして居る内に二人とも疲れ切ってしまってペタッと座ったまんま今度は、もう車夫の口論みたいな悪体の云い合いが始まった。
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「馬鹿。
間抜け。
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は通り越して仕舞っ
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