て聞くにしのびない様な事を云っては時々思い出した様に打ったり引っかいたりして居たが到々奥さんが泣き声で、
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「馬鹿、間抜け、おたんちん。
 さっさと出て行け。
 どんなにあやまったって置いてやるもんか。
 さあ、
 さ、さっさと出て御行きってば。
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と云うと、女中は手放しでオイオイ泣きながら、
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「出て行くともね、
 手、手をつついて居て下さいったって誰が居てやるもんか。
 馬鹿馬鹿しい。
 此処ば、ばかりにおててんとうさまが照るんじゃあるまいし。
 覚えてろ。
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と云うなり奥さんを小突いて何か荷物でもまとめるつもりか向うの方へ行くと、奥さんは奥さんでヒョロヒョロしながら、
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「出て行け出て行け。
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とあとを追って行った。
 あきれはててまばたきもしずに見て居た女中達は、私共にその様子を話してきかせながら、
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「女って浅間しいものでございますねえ。
 奥さまとも云われるお方がまあ何と云う事でございましょうねえ。
 旦那様のお顔に
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