をして居たが、いつだったか奥さんのうかつで、這い初めの子が気発油をのんで死んだ事を新聞に出されたので、厭気が差したと見えて越して行ってしまった。
何でも学士だったとかで、そう云えばかなりな書籍なども置いてあった様だ。
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「今度来たのはどんな人なんだろうねえ。
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と云い合って居ると、男の子がいつの間にか偵察をして来て、
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「孝ちゃんの家が又来た。
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と報告した。
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「孝ちゃんの家が?
まあそうなの、又来たの。
じゃああの小っちゃな女の子も居るの、
いやな顔をした親父さんも。
「うん、
何だか赤坊が二人ばかり殖えた様だ。
「まあそうかい。
一寸母様、孝ちゃんの家が来たんですってさ、
ほんとに可笑しいわ。
一体どうしたってんだろう。
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私は一年程前まで居た「孝ちゃんの家」にくっついて居る種々な話を思い出して笑わずには居られなかった。
何でも夏だったと覚えて居る。
主人は勤めに、子供達は学校に行ってしまって静かになって居た孝ちゃんの家が
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