家へ行って、庭中さがして御覧、
 きっと、その眼玉がおっこって居るから。
 それをよく洗って入れてやればきっと元の様になる事うけ合だ。
 ね、
 早く行ってさがして御覧。
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と云うと、しばらく解せない様な顔をして居た娘は、決心がついた様に、
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「ええ私さがして見るわ。
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と云うなり袂を抱いて転がりそうにかけて帰った。
 どうしてもなくなった鶏の眼玉をさがし出さなければならないと思った小さい子は、可哀そうに顔を真赤にして、木の根の凹凸の間から縁の下の埃の中までかきまぜて一粒の眼玉をあさって居た。
 弟は其れをだまって見て居たらしい。
 ややしばらくたってからさがしあぐねた子が、
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「見つからないわ。
 どうしちゃったんだろ、
 私困っちゃうわ。
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と鼻声になって弟に訴えると、
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「ほんとにそりゃあ困るな。
 そんなら何なんだろ、
 きっと、こないだの晩の雨でながされちゃったんだよ。
 きっと今頃は品川のお台場にのってるよ。
 何にしろもうだめだよ。

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