方の方で逃げ出すんだもの。
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などと云って馳け廻って居る。
鶏の方で此方に飛んで来ると、キーキー悲鳴をあげて跳ね上ったり、多勢声をそろえてシッシッと云ったりするので、切角鳥屋に入ろうとするとはおどしつけられて、度を失った鶏達は、女共に負けない鋭い声をたてながら木にとびついたり、垣根を越そうとしたりして、疲れて両方がヘトヘトになった時分漸う鳥屋の止木に納まるのである。
その頃には鳥は大切[#「切」に「(ママ)」の注記]明き盲になってからの事である。その何とも云えない滑稽な芝居を遠くの方から眺めると、大小四人が鶏を相手に遊んで居る様である。
又、実際一日中追い立て追い立て仕事にいそがしい女中や清子は、この位の公然な遊戯時間でも与えられなければ浮ぶ瀬もないわけである。
キーキー、コケコッコと云うすさまじい声が聞え出すと、家の者は、
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「いよ、始りですかね。
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などと云って笑った。
かなりの間は、恐ろしく不安な生活をさせられて居る鳥達もどうやら斯うやら息才[#「才」に「(ママ)」の注記]で居たが、一羽大きな牝鶏がけ
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