と云うのだ。安心しろ、お礼はきっと貰えるから」
「ほほう! じゃあお前は、私が一つ旅行をしないですむように仕てくれるんだね」
 笛吹きは嬉しそうに云いました。
「あのね、俺がね、先の祭の時教父の処から白い雄鵞鳥を一羽盗んだもんで、罰に教父がパトリック山迄行って来いって云ったのだよ」
 プカは、半馬鹿の笛吹きを背負ったまま丘越え、沼踰え、荒地を駆けて、到頭パトリック山の頂上迄彼をつれて行きました。頂上に着くと、プカは足で三度地面を踏み鳴らしました。すると、地面に大きな戸が開き、其を抜けると二人は一つの綺麗な部屋に入りました。
 見ると、部屋の真中には大きな黄金の卓子《テーブル》があり、其囲りに幾百人か数え切れない程沢山のお婆さんが坐っています。プカと笛吹きとが入って行くとお婆さん達は立ち上り
「これはこれは、まあよく来なさった、十一月のプカさん。お前さんのつれて来たのは何者です?」
と訊きました。
 プカは答えました。
「アイルランドで一番上手な笛吹きです」
 お婆さんの一人が床を一遍踏み鳴らしたら、壁に一つの戸が開きました。其処から何が出て来たと思いますか? ほかでもない、笛吹きが教父
前へ 次へ
全12ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング