た。プカの頭には長い角が生えていました。驚いた笛吹きは確《しっ》かり其角につかまり、さてプカに向って云いました。
「獣奴! 消えてなくなれ! 俺を家へ帰しておくれよ。私は阿母さんにやるお金を十|片《ペニー》ポケットに持っている。阿母さんは※[#「鼾のへん+嗅のつくり」、第4水準2−94−73]《かぎ》煙草が欲しいんだからさ」
「阿母さんなんか如何でもいい」とプカが返事をしました。
「だが確かりつかまっていろ。落ちるとお前の頸の骨と大事な笛が折れて仕舞うぞ」
 そして、又云うには
「私にシャン ※[#濁点付き片仮名ワ、1−7−82]ン、ヴォクトを吹いてきかせてお呉れ」
 笛吹きは
「俺そんなの知らないよ」
と云いました。
「知ろうが知るまいがかまわない。吹きなさい。私が教えてやる」
 そこで笛吹きは笛の袋に風を入れ、自分で喫驚《びっくり》する程立派な音楽を奏しました。
「さてさてお前は偉い音楽の先生だ」
 笛吹きはプカに申しました。
「けれども一体何処へ私を背負って行こうと云うのかい?」
「今夜パトリック山の頂上でバンシー達の家に大宴会がある。私は其処へお前を連れて行って音楽をやらせよう
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