は、自分がそこにこれから住もうとは思わなかったが、佃にたいする最後の思いやりとして、その引越しを手伝った。引越しが終った日の夕方素子の家をたずねた伸子は、
「ああ、さわぎだった! 引越したの」
といいながら、坐った。
「引越し? だれが」
「わたしたちの家」
素子は、坐り直し、その二つの視線で伸子の顔をハッシとうつようにけわしく、
「だから、この間、いったでしょう。君に私の気持なんてわかりっこないんだ。馬鹿馬鹿しい!」
眼に涙を浮べた素子は、
「だから女なんていやだ!」
侮蔑と痛苦とをこめた声でいった。
素子の苦痛は伸子を畏縮させた。けれども、伸子のこころもちは、ぼうっと広く開いたままで、素子の切迫した激情の焦点に一致するようにしぼりが縮まなかった。そのことに気づいて伸子は一層素子にたいして気がひけた。
「君はよかれあしかれごく自然なひとさ。自然なだけ、ひどいめに会うのは私にきまってるんだ」
素子は伸子の方を見ないまま、
「いつだったか、いったろう? 私は、男が女を愛すように女を愛すたちだって。――あのとき、ぶこちゃんは、わかったようにあいづちうってたけれど、実際には、いまだ
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