して、小さい銀の花瓶をもって行った。そのときはよろこんで、箱の上に出して眺めたが、十日ほどたって行ったときには、もうその辺に見えなかった。
「花瓶どこへ行ったの?」
 伸子がきくと、多計代は、
「その辺にないかい?」
 菓子箱や罐がごたごたと置いてある座敷の隅を、坐ったままひとわたり目でさがした。
「ないねえ、どうしたんだろう。せっかくお前がくれたのに……」
 それは、せっかく娘がくれたものだのに、という心持よりも、あんなものでも、ともかくお前がくれたものなのに、というニュアンスで響いた。手袋をもって行ったときも、財布をもって行ったときも、多計代の礼をいう調子から伸子が感じたのは同じことだった。そして、寂しかった。
 保は、伸子が育った時分の質素だった佐々の家庭とはまるで違って来ている経済事情や社交の空気のなかに大きくなって、多計代が、数年このかた身につけはじめた変な無感覚さを、自覚しようもない少年から青年への毎日の生活でわけもっている。伸子は、何かの拍子に、冗談のようにいったことがあった。
「わたしの力では、とてもお母様がよろこぶようなものは買ってあげられないからね、親孝行のしようが
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