が重くぽってりと、色つやのさえない、しかもどこか鋭い保の容貌は、カーネーションの美しい体温のない充満の中で人間の肉体や心の分厚い存在を伸子に感じさせた。おとといは、薫りの雲がみちみちているように感じられた温室の内部が、きょうは花のつくられている温室、という現実的な手堅い感じで支配された。
保は、
「シクラメンはおやりになりませんか」
ときいた。
「今年はやりません。鉢ものですしね」
「ああ、そうね」
そういう問答の内容は伸子にわからなかった。
わからないことだらけの竹村と保の話を、伸子はむしろ満足してききながら、長いこと温室にいた。保が辞退するので、住居の方へはよらないで、帰途についた。
平静な保の表情から、伸子は、温室を見たことがうれしかったのか、それほどでもなかったのか、よくわからなかった。
「保さん」川ぶちの道を歩きながら、伸子がきいた。「どうだった? あんなの平凡?」
「僕、よく出来ていると思う。――でも、あれだけつくるのは、割合やさしいよ」
保は、先頃、父につれられて大磯のある富豪の温室を見て来た話をした。そこでは主としてメロンと蘭などがつくられていた。
「姉さん、
前へ
次へ
全402ページ中81ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
宮本 百合子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング